4月……。新しい季節の始まり。
色々と悶着はあったものの、劉と一緒に暮らす事を決めた龍麻は、二人暮らし用の新しい日用生活グッズを買いそろえた。
そして、それが龍麻の部屋に運び込まれて、これで二人の新生活も、めでたくGOサイン。
「……なんやけど、何か、前のアニキのへやよりも、黄色が極端に増えたような気ぃするんやけど……」
それらを部屋に配置した時に、劉が呟いた言葉に、龍麻はぎくっとしてしまう。
「い、いや、ほら、風水で『西に黄色は金運を呼ぶ』っていうだろ? だからちょーっと黄色い物を増やしてみようかなー? なんて……」
「ちょっと言うても……方角関係ないでこれ。見渡す限り黄色いやんか」
電話も黄色。
CDプレイヤーも黄色。
掃除機も黄色。
台所用品も、浴室用品もぜーんぶ黄色。
「そ、そうか? 劉の気のせいじゃ……」
「ないわな」
きっばりと、断言されてしまった。
いくら何でも、ここまで黄色づくしだと、劉だって不審に思う。
「何企んでるんや? アニキ」
「企んでなんか、いないって!!」
企んでいる訳ではない。
だけど……やっぱり、この黄色づくしの『理由』については……
『恥ずかしくて、自分から言えるもんか』
が、龍麻の本音。
「なら何で、こないに黄色ばっかり……」
そこまで言った時に、劉の視界に飛び込んできたのは、新しい冷蔵庫の鮮やかな黄色と……
冷蔵庫のドアに描かれていた、愛くるしい黄色い物体。
ころころとまるくって、つぶらな点目で、じーっと自分を見ているような。
「アニキ……これ……」
よく見れば、電話にも、CDプレーヤーにも、掃除機にも、台所用品にも、浴室用品にも全部のものに、劉がこよなく愛している生き物によく似た、その愛くるしい物体が描かれていた。
「だから……企んだとかじゃなくてさ。劉……喜ぶかと思って。どうせなら、普
通のものよりも、こういうものの方が、いいかなって……」
うつむきかげんで、龍麻が呟く。
それは、偶然自分の元に送られてきたカタログが、原因だった。
かわいいひよこのカットがたくさん載っていた、自分には多分全く縁のない世界のもの。
何でこんなものが、自分のところに送られてきたんだろうか……? と思ったが、『ご紹介者』様の欄に、自分の養母の名前が書かれていたので、納得してしまう。
……確かに、実年齢よりもかなり若くみえる母が好みそうなものだから。
……とはいえ、自分の持ち物に、そういうもの似合わないんじゃないかなー……
と思った時に考えたのは……
もしかして、劉なら……。
喜んでくれるだろうか。
劉がとてもとても可愛がっている、ひよこの柄だから。
だけど、やっぱり……
「呆れた……かな。ごめんね、黙ってこんなもんで揃えちゃって」
だから、必死に誤魔化していた。
自分勝手にしてしまった事だから。
もっと、劉の意見を聞けば良かったかな……と思ったのは、もう全部、注文をし終わった後だった。
今更どうしようもなくて…。
「何か、わい……嬉しいで」
龍麻の耳に、劉の声が届く。
「……え……?」
一瞬、龍麻が自分の耳を疑ってしまった言葉で。
「わいの為に、アニキこれ揃えてくれたんやろ? めっちゃ嬉しいで」
うつむいてしまった龍麻の両頬に手を添えて、顔を上げさせて劉は答えた。
龍麻の目に映ったのは、本当に満面に笑顔を浮かべた劉の顔。
「劉……だって、こんな、何か…女の子が揃えるみたいのでさ。嫌じゃないのか?」
「かわええやん。ぴよちゃんがいっぱいで。アニキはわいがぴよちゃん好きなのを知っとって揃えてくれたんやもんな。嫌やなんて言う訳ないやん」
本当に、嬉しそうな劉の表情。
その言葉か、本心からだと解るような。
それだけで、龍麻の心の中にあった重みが、溶けてなくなっていく。
「せやけど、ぴよちゃんもかわええけど、こんなんたくさん揃えてくれた、アニキの方がもっとかわええで」
「ばっ……馬鹿っ! 何言ってるんだよっ!」
不意打ちに近い告白に、龍麻は耳まで真っ赤になってしまう。
「ほんまに、わいは幸せもんやな、かわええぴよちゃんたちと、アニキと……ここにあるのは、わいの好きなもんばかりや」
「…当たり前だろ? 劉」
微かに笑い声を立てて、龍麻が呟く。
「幸せになる為に、二人でいるんだからな…」
(書き逃げ)
|